Book

よっちは小さいころから読書が大好きです。
しかし、本を読む速度が遅いので、ひと月に読める本の数は、せいぜい2、3冊です。
そんなわけで、このレビューも緩やかに増えていくのかなと思います。
なお、ここに書かれた評価は、あくまでよっち個人の感想・評価ですので、ご了解よろしくお願いします。
(★は5つが満点です)

Updated: 17th Mar., 2007



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INDEX(五十音順)

Atelier MORANDI風の谷のナウシカ彼方なる歌に耳を澄ませよ唐長−京唐紙空の境界貴婦人と一角獣京都きょうの猫村さん 1巻さくら精霊の王世界の終わり、あるいは始まりディスクパッケージデザインDODOネクロポリスHAPTIC 五感の覚醒Harry Potter and the Half-Blood Prince百器徒然袋―風FILING 混沌のマネージメントブレイブストーリー『ブレードランナー』論序説マイケル・ケンナ写真集 Retrospective Two魔の都の二剣士mamechan

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ディスクパッケージデザイン12月4日読了
大橋二郎編翔泳社★★★★★

風の谷のナウシカ(全7巻) 11月25日読了
宮崎駿著徳間書店★★★★★

ネクロポリス(上・下) 上巻 下巻11月18日読了
恩田陸著朝日新聞社★×10

FILING 混沌のマネージメント10月23日読了
株式会社竹尾=編、織咲誠&原研哉+日本デザインセンター原デザイン研究所=企画/構成宣伝会議★★★★★

彼方なる歌に耳を澄ませよ10月7日読了
アリステア・マクラウド著、中野恵津子訳新潮社クレスト・ブックス★★★★

HAPTIC 五感の覚醒9月21日読了
株式会社竹尾=編、原研哉+日本デザインセンター原デザイン研究所=企画/構成朝日新聞社★★★★★

ブレイブストーリー9月12日読了
宮部みゆき著角川書店★★★★★

きょうの猫村さん 1巻9月6日読了
ほしよりこ著マガジンハウス★★★★★

Harry Potter and the Half-Blood Prince9月2日読了
J.K.Rowling著Bloomsbury★★★★★

ハリー・ポッターシリーズの最新巻、第6巻です。今までは翻訳で読んできたのですが、今回初めて原書を最後まで読み通すことができました。細かいディテールをもう一度読み込むために、翻訳が出たらまた読もうと思っています。長大だった前巻「不死鳥の騎士団」(冗長だという批判はありますが、よっちはそうは思いませんでした)に比べるとやや短いですが(それでも、物語を堪能するのに十分な長さではありますが)、物語の質の高さは前巻に負けていないと思います。

最後はなんとも悲しい物語でした。前巻で大切な人の死を経験したハリーが、また1人、大切な人を失ってしまうのですから……。そして信じられぬ裏切り……。ハリーが出会う苦難の連続に、痛ましい思いがつのります。死と裏切りと苦難をこめて、物語はますますダークに、重苦しくなって我々の心にのしかかってきます。これは何かを思い出させるなあと思って考えてみると、先日観た映画「スター・ウォーズ/エピソード3」の、あの悲しみに満ちた悲劇を思い出させるのです。圧倒的な力を振るう悪の嵐のさなかに大切な人を失う切なさが、両者に共通しているのかもしれません。

しかし、次の最終巻に向けて希望が持てることは、苦難の果てにハリーが大きく成長したことです。自分ひとりで運命に立ち向かうことになり、自分の力でヴォルデモート卿との対決に歩みだしたハリーは、一体どのような冒険を最終巻で経験するのでしょうか。スター・ウォーズ的に言うと、"the Chosen One"が"a New Hope"として一歩を踏み出した、とでも言えましょうか。最終巻では当然すべての疑問が明らかになるのでしょう。どんな長大な物語になるのか(よっちとしては長ければ長いほど嬉しいです)、本当に今から待ち遠しいです。

精霊の王7月8日読了
中沢新一著講談社★★★

気鋭の宗教学者による一冊です。よっちは、かつてこの著者の本を読んだことがありますが、自分の思考が未熟だったせいか、この人の論考に全然ついてゆけず、正直言ってちんぷんかんぷんでした。今度も理解できるのかとても不安でしたが、多少の読みづらさはあったものの、なんとか内容についてゆけたように思います。

芸能の徒の神「宿神」の記述から始まり、石の神=ミシャグチ=シャグジが、いわゆる神道の神々より根源的な力を持ち、古代より日本人の精神性の中に深く根ざし、影から支えてきたという経緯を明らかにしてゆきます。なにかと一元論で語りがちになる日本の"神"=精神性を、単純な二元論で置き換えることなく重層構造的に論じたのは、大変興味深いものがあります(とてもすべてを理解したとは思えませんが)。

魔の都の二剣士 ファファード&グレイ・マウザー16月1日読了
フリッツ・ライバー著、浅倉久志訳創元推理文庫★★★

「コナン」シリーズやマイケル・ムアコックの諸作と並ぶ、最も優れたヒロイック・ファンタジーとの呼び声も高い「ファファード&グレイ・マウザー」シリーズ。前から存在は知っていたし、気になっていたのですが、今回ふと思い立って第1巻を読んでみました。

他にあまり類を見ない、二人の剣士が主人公のこのシリーズ、第1巻はそれぞれの出自から出会いまでの物語なのですが、軽い感じで読み進めました。けっこう楽しめたのですが、やはり連作ものということで一つ一つの話が短いせいか、やや深みに欠ける気がしました。人物の感情や行動が極端に感じることも多かったのです。これが、古代・中世の人々の精神性に近いものを表現しようとしたのか、それともこの程度にしないと、アメリカ人の民衆には理解してもらえないからなのかはわかりませんが。さて、2巻以降も読もうかどうしようか思案中です。

貴婦人と一角獣5月16日読了
トレイシー・シュヴァリエ著、木下哲夫訳白水社★★★★★

映画化もされた「真珠の首飾りの少女」の著者による小説です。今度の題材は、15世紀末に織られた6枚組のタペストリー「貴婦人と一角獣」"The Lady and the Unicorn"です。

このホームページのタイトルからもお分かりのように、よっちは一角獣が大好きです。大学の卒論のテーマでしたし、それ以降も何かと本を読んだりしている、よっちにとってライフワークのようなものなのです。当然、パリの国立中世博物館(旧クリュニー美術館)に所蔵されているこのタペストリーも、今までに4回(ほとんどパリに行くたびに)見ています。それほど大好きなこのタペストリーなので、この本を見つけたときは大喜びしました。

人間の五感を表すとも、恋物語が隠されているとも言われるこのタペストリーですが、著者は膨大な資料と卓越した想像力をもって、このタペストリーが完成するまでの過程の中に秘められた、密やかな物語を紡ぎだします。禁断の愛、許されぬ恋、どうにもならない悲劇……。

特筆すべきは、存在感のある登場人物たちが生き生きと描かれていることです。特に、タペストリーの原画を描く絵師のニコラ・デジノサンが、際立って存在感があります。絵筆を持たせれば卓越した才能を発揮する一方、気取り屋で無類の女たらし、どうしようもないところも併せ持っているくせに憎めない、そんな彼が、最後に他の人物たちにとって"天使"の役割を果たすのが、意外性のある展開で楽しませてくれます。彼をはじめ、合計7人の人物が順番に一人称で物語を紡いでゆくという、物語の構成も効果的です。この語る順番が、物語の進行と実に有機的に結びついているのです。実によくできた小説だといえるでしょう。

タペストリーの画像は、パリの国立中世博物館のホームページhttp://www.musee-moyenage.fr/index.htmlで見ることができます(ただし日本語ではありません)。

京都 The Old and New Guide of Kyoto5月13日購入
MOTOKO著プチグラパブリッシング★★★★★

古さと伝統だけを求めて京都にやってくる人は、残念ながら京都の半分だけしか観ていないような気がします(京都人でないよっちが言うのもおこがましいですが)。よっちが思うに、古さと新しさ、伝統と革新、貴族性と庶民性、それらが渾然一体と同居していることこそが、京都の最大の魅力なのです。

この写真集は、まさに京都のそういう"渾然一体"な魅力をよく写し出している気がして、よっちにはすごく腑に落ちました。ページをめくるたびに、京都の持つさまざまな"顔"に出会えるのです。世に京都を写した写真集は数多くあれど、これほどに京都の姿をまるごと見せてくれる写真集はそうそうないと思います。

ちなみに、この本は一般には赤い表紙の本が売られていますが、よっちは、青山一丁目のBOOK246で、限定500部のベージュの表紙のヴァージョン(しかも著者サイン入り)を手に入れました。なんとも幸運な偶然でした。

唐長−京唐紙5月3日購入
千田堅吉監修ピエ・ブックス★★★★★

京都の恵文社一条寺店で購入した本です。江戸時代から続く京都の唐紙(からかみ)工房「唐長」。そこで使われ、作られる京唐紙の文様・図案を収録した本です。文章はわずかな技法の説明など必要最低限に留め、ひたすら文様の図版が延々と掲載されているのです。いわば「唐長」の文様の集大成なのです。

ただぱらぱらと文様を眺めているだけでも楽しいのですが、同じ文様でもいくつものヴァリエーションの違いがあることを気づかされたり、よっちの創作のヒントになったり、とても実用性の高い本でもあります。デザインの仕事をしている人、デザインに興味のある人には、必携の本と言えるでしょう。

「唐長」についての情報は、唐長工房ホームページhttp://www.karacho.co.jp/で見られます。

Atelier MORANDI4月30日購入
Luigi Ghirri著Palomar★×100

壜などの静物画や風景画などを描き続けたイタリアの画家モランディのアトリエを、やはりイタリア人の写真家ルイージ・ギッリが写した写真集です。よっちはモランディの絵が大好きで、この写真集のこともすごく気になっていました。最初に知ったのは「須賀敦子全集」のケースデザインにこの写真が使われていたことです。

静謐の中に情熱を遺したモランディの作品のように、ギッリが写し出した彼のアトリエにも静謐が支配しています。いつまでも見ていたいような、なんとも穏やかな心地にさせられる、素朴で私たちの眼をとらえてはなさない写真たちです。

この写真集はイタリアで出版された本で、テクストはイタリア語とフランス語で書かれています。Amazon.co.jpでは扱っていないようです。よっちは恵比寿のアンティークショップ「タミゼ」で購入しました。

世界の終わり、あるいは始まり4月21日読了
歌野晶午著角川書店★★★

読み終わって、その結末にしばし唖然としました。物語後半の、出口のない絶望的な展開(?)から抜け出してたどり着いた結末(?)の、まさに唖然とする終わり方。世間的にはぎりぎりミステリーなのでしょうが、よっちの考えるミステリー=推理小説というものでは、断じてありませんでした。たしかに、とんでもない仕掛けを仕掛けてくる小説を多く書くというこの作者(よっちはこの本が初読でしたが)のなかでも、おそらくピカイチの"とんでもなさ"でしょう。

とにかく、物語の構造そのものがトリックみたいなものなので、この物語の中味について少しでも触れようとすると、ネタバレになってしまう危険があり迂闊なことは書けません。連続児童誘拐殺害事件にからみ、平穏な生活を送っていたはずの一家に"危機"が訪れる話、とだけ記しておきましょう。子どもを持つ人にとってはある意味必読の、それでいて一度読んでしまったら二度と以前の無垢な状態には戻れないような、そんな恐ろしい(!?)小説です。

それにしても、前半はぐいぐいと読者を引っ張るのに、後半のひたすら絶望的な物語には、もうこれ以上読みたくない、しかし結末を知らずにこの本を手放したくないという、非常にいやーな気持ちにさせられました。そしてその果てがあの結末ですから……ただ、これだけの物語を綴っておきながらこういう結末にしたということは、意地悪な見方をすると、著者のある種の"逃げ"なのではないかとも思えてしまいます。いやはや、本当に悪夢のような小説でした。

さくら4月13日読了
西加奈子著小学館★★★★

この物語を、なんと言い表せるのでしょうか。「ある小さな家族の、満ちあふれる幸福とその崩壊、そして再生の物語」なんて書いてしまうと、確かにその通りだけれども、まるで「積み木くずし」みたいで全然的を外しているような気がします。もっとも正しいのは、この本の帯に書いてある文句「それでも、僕たちはずっと生きていく―。」なのだと思います。この本の編集者は、きちんとこの物語を理解しているのでしょう。

3人兄妹の真ん中の「僕」を語り手に、両親と3人兄妹で5人家族プラス犬の"サクラ"の軌跡が、些細な出来事もちょっとした幸福も、大恋愛もセックスもかなわぬ想いも、そして「死」も、全てが等価のもののように綿々と綴られてゆきます。物語の最後=現在に行き着いて、まさに「喜びも悲しみも幾歳月」の言葉どおり、この軌跡の果てに私たちが深く想うことは、「生きとし生けるものよ」としか表現できないことだったりするのです。この素晴らしき地上に生けるものたちよ、そんな言葉にしかならない、やりきれないけれども深く心を揺さぶる気持ちにさせてくれる物語です。

とはいえ、どうしても書いておきたいことは(作者の意図とは別だろうけれども)、この家族から幸せを奪ったのが"自動車事故"だということです。自動車は、使い手に意思がなくとも人を傷つけたり殺したりしてしまうということにおいて、包丁や拳銃よりも恐ろしい凶器になりうるものなのです。乗り手の"ちょっとした不注意"が、ひとつの家族の幸せを永遠に奪ってしまうのです。全ての自動車を運転する人たちは、このことを深く心に刻み付け、万一の時にはきちんとその責任を負うことができるという覚悟を持ってハンドルを握るよう、心の底から警告します。

百器徒然袋―風4月3日読了
京極夏彦著講談社ノベルス★★★★★

著者のいわゆる「妖怪シリーズ」に登場する、型破りで奇想天外な探偵・榎木津礼二郎を中心に据えた、番外編的な中編集シリーズの2冊目です。件の榎木津を初め、「妖怪シリーズ」本編でおなじみの登場人物たちが出てきて、大変楽しく読み進められました。本編と同じく怪奇・奇妙な事件やら京極堂による薀蓄やらが出てくるのですが、榎木津の破天荒なキャラが影響しているせいか、どの物語もかなりコミカルで風変わりな調子で進んでいきます。しかも本編のクライマックスだったら京極堂の"憑き物落とし"による解決なのですが、こちらは榎木津による(もちろん京極堂も加担しているのだけれども)ハチャメチャな事件解決、というよりも事件"粉砕"がクライマックスになっていて、それがなんとも小気味よい読後感をもたらしてくれます。楽しく読める佳作でした。

DODO(ドードー) であえたはずのどうぶつたち3月12日購入
倉科昌高著ピエ・ブックス★×10

前記「mamechan」を買った恵文社一条寺店で、"出会って"しまいました。この"であえたはうのどうぶつたち"に……。表紙のドードーのつぶらな瞳からどうしても目が離せず、即レジ行きでした。

横長の大きい見開きに、絶滅してしまった動物たちが次々と現れてきます。動物たちはみなつぶらな目を持ち、画面の中にゆったりとたたずんでいます。そして、最後に「ぼくたちは であえたはずだったのに」と語られ、ドードーの後姿にちょっと物悲しい気持ちにさせられます。なんとも可愛らしく、いとおしく、そして物悲しい、とても素晴らしい絵本に"出会って"しまいました。

著者はカスタムペインターだそうで、カスタムペインターってなんだ?と思って著者のホームページを見ると、レーサーのヘルメットやいろんな立体物などにペイントしてオリジナルものに"カスタマイズ"する仕事をしていらっしゃるようです。動物たちの絵の独特なにじんだ風合いも、最初はデジタルペイントかと思いましたが、これらもスプレーで描いているようです。

それにしても、動物たちのつぶらな目がかわいい! よっちのお気に入りはドードー、ちこちゃんはオーロックス(巨大な牛みたいな動物)がお気に入りです。

更なる著者情報は、著者のホームページhttp://www.m-kurashina.com/で見られます。

mamechan3月12日購入
はまのゆか著ブルース・インターアクションズ★★★★★

雪の舞う京都で、一部では大変有名な、ちょっと変わった品揃えの書店・恵文社一条寺店を訪れた際、書店併設のギャラリーでこの著者・はまのゆかさんの個展が開催されており、この本の原画が多数展示されていました。その場でこの本を買ってしまい、はまのさんのサインもいただいてしまいました(笑)。

この著者は、もちろんあのベストセラーになった「13歳のハローワーク」のイラストを描いた方です。この本は、著者が自分で創造し、少しずつ描きためてきた"mamechan"というちょっとお茶目な女の子のキャラクターのスケッチを一冊の本にまとめたものです。可愛らしくて微笑ましく、ちょっと懐かしい気持ちにさせてくれる、そんなイラストが並んでいて、何度ページをめくっても飽きることがありません。絵本ではあるものの、子どもよりは我々大人のほうが得るものが多いような感じの本です。

更なる著者情報は、著者のホームページ"From Yuka"http://www.hamanoyuka.net/で見られます。

空の境界(からのきょうかい)(上・下) 上巻 下巻3月9日読了
奈須きのこ著講談社ノベルス★★★★

「これぞ新伝綺ムーブメントの起点にして到達点!」(本の帯より)と賞賛されていたので前々から気になっていた小説ですが、ようやく読む機会を得ました。もともとWEB&同人小説として世に出て、大変な人気を博した小説だったものを商業出版化したものだそうです。作者はいわゆる"ギャルゲー"のクリエイターが本業らしく、正式に(?)世に出た小説はこの作品のみのようですが、確かに所々若書きな感じはあるものの、なかなかどうして堂々とした読み応えでした。

二年間の昏睡から覚め、あらゆるモノの「死」を視ることができ、この世の存在の全てを「殺す」ことができる超少女・両儀式と、彼女を愛し、見守り、支え続ける平凡な青年・黒桐幹也を中心に、この世のものならぬ能力を持つものたちとの闘争の物語が、連作形式で綴られています。その暴力と流血に満ちた物語の血腥さの割には、意外と爽やかな印象を感じさせるのは、この物語がいわゆる"A boy meets a girl"のストーリー(そして"A girl meets a boy"でもある)であって、そのことが一番ここで大切なテーマであるからなのでしょう。実際、大抵の物語で最後に語られるであろう最大の敵との死闘が、この小説では物語の真ん中あたりで展開し、最終章ではその"A boy meets a girl"を最も強調する展開に収斂してゆくことからも、そのことが窺えます。

さすがゲームクリエイターと言うべきか、登場人物の個性やキャラクター性はとても生き生きとしていて、いわゆる"キャラの魅力"で引っ張ってゆく力や、ヴィジュアルなイメージを喚起する文章は素晴らしいものがあります。これぞアニメ・ゲーム世代ならではの小説、なのでしょうか。世に氾濫する「ライトノベル」と呼ばれる小説はあまり読んだことがないのだけれど、新しいエンターテインメント小説の形が少しずつ世の中に認知されてきているような気がします。また、笠井潔氏による、伝奇小説の系譜から語り起こした入魂の解説もまた、一読に値します。

マイケル・ケンナ写真集 Retrospective Two2月16日購入
マイケル・ケンナ著エディシオン・トレヴィル★×100

「マイケル・ケンナ写真集 A Twenty Year Retrospective」に続く、二冊目の集大成的写真集です。前作に続き、ただただ素晴らしいの一言です。今回は日本で撮影した写真も多いのですが、もはやここで作品に成り果てているモノクロームの映像は、現実の場所や事物とはまったく無縁なのです。ここには"写真=記録"という概念はもはや存在しません。ぜひ素晴らしい世界を堪能してください。

『ブレードランナー』論序説1月27日読了
加藤幹郎著筑摩書房★★

中学生のときに始めて劇場で観て強烈に魅せられて以来、映画「ブレードランナー」は常に、よっちの文化的な原風景の一つであり続けました。その映画を、映画理論・文化論記号論など様々な角度から論じた本となれば、面白くないはずがありません。そういう期待を胸に、勇躍して読み始めた本書でしたが……。

大変難しい本でした。とてもわかりにくい。何とか読み進めてゆくうちに著者の言わんとすることはおぼろげながらわかってくるし、その考察が非常に広範囲の文化的テクストからなされていることはよくわかるので、その点ではかなり興味深い評論だといえるでしょう。作品を論じるときには、そのテクスト自身のみに傾注せよという著者の主張にも深くうなずけます。しかし、文章が時にあまりに尊大で、もったいぶった表現になったりするのには辟易しました。なんで学者という人々は、率直に書けばわかりやすい物事を、わざわざまわりくどく表現しないと気がすまないのでしょうか。それに、これは同業の専門家ではなく(多少知的であっても)一般の人々に向けた本であるわけだから、何の解説も説明もなしに専門用語をぽんぽんと多用するのはやめて欲しい。どうも学者という人たちはそういう"傾向"にあるのは否めないようです。あっもちろん、よっちがこの本に見合った知的センスと教養がないだけなのかもしれません。さぞセンスと教養に満ちあふれた方々は、この本をやすやすと理解しているのでしょう。けれども、よっちはそうした高みから見下ろして、無意味に人を選別する態度に迎合したいとも思いませんし、それに迎合するためだけの薄っぺらい"教養"とやらは身につけたいとすら感じません。この著者の文章には、ヒューマニストぶった態度の裏に、どことなくそうした"選民"的な態度が見え隠れしているように思うのです。それこそが、この本を読んで思ったネガティヴな印象の正体なのかもしれません。

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